「キラはどうした?」

「いや、俺は何も聞いてないが」

少し集合時間からは早いが、すでにアスランとイザーク、シンは格納庫に集まっていた。

だが、その場にキラの姿はない。

「シン、キラからなにか聞いているか?」

「昨日は仕事が残っているといって部屋の方にも戻ってきてませんが・・・」

だが、今日に限ってはどこにいるのかすらわからない状態だった。

「探すか」

「何かあったかもしれないしな」

アスランとイザークがどうしてそこまでキラのことを心配するのかわからなかったが、シンも一昨日の就寝前のキラの様子がずっと気になっており、そのまま二人に付いてキラを探しに行った。







格納庫を出ると、すぐそこにレイとルナマリアがいた。

どうやら今から向かうところだったようだ。

「どうなさったんですか?」

「お前達、キラを見なかったか?」

「ヤマト教官、ですか?」

レイとルナマリアが顔を見合わせる。

「まだいらしていないんですか?」

「ああ、昨日から行方が知れない」

その言葉にレイとルナマリアの視線がシンに集まる。

シンはうなづきだけで本当のことだと合図する。それだけで二人には何か大変なことなんだということが察知できた。

「昨日からなんですよね。私、昨日の夕食後、ヤマト教官見ました」

「どこで?」

「格納庫に向かう途中だったんだと・・・この廊下をあの扉に向かって歩いてましたから」

ルナマリアが示す先は、先程アスランたちが出てきた扉。

だが、周りを見回してもキラの姿はなかったはずだ。

勘違いだろう、とシンは思ったが、アスランとイザークは何かを確信したようにうなづいた。

そしてどちらともなく格納庫に向かって言った。

何を確信したのかはわからなかったが、シン達も二人の後を追いかけた。














「キラはフリーダムの中か」

「だろうな、あそこぐらいしか今のキラが一人になれる場所はない」

フリーダムのコックピットは案の定固く閉じられていた。

普段パイロットが中に居ない場合、整備班が作業しやすいように開放されているのが常だ。

それが閉じられているということは・・・。

「キラ、いるのか?」

コンコンと叩いても返って来る返事はない。

「あけるぞ」

パスワードロックされているのを強引に外側から開く。

普段ならそんなことはほとんど不可能だが、今のキラ相手ならば、それも容易にできる。




「キラ?」




中には、確かにキラはいた。

だがキラはうつむいてイザークやアスランが声をかけても何も反応を返さない。

ただぎゅっと自分の体を抱きしめ、何ものからも身を守ろうとしているかのよう瞳を閉じていた。

「・・・・発作だな」

「ああ。しかし、ここでなるとはな・・・」

キラの発作が起きることなど、想定していなかった。

戦後何度としてこうなったキラを見てきた二人は、はっきりいって困ってしまった。

こうなったキラを慰めることは、アスランたちにはできない。

いや、誰にもできないのだ。この状態になったキラには誰一人として触れることさえ許されない。

不用意に触れればキラは暴れだし、なおのこと発作をひどくするだけだ。










「どうしたんですか?」

ようやくおいついてきたシン達が、フリーダムのコックピット付近でとどまっているアスランたちに目を向けた。

ここでとどまっているということは、やはりここにはキラはいなかったということだろうか。

だが、追いついたシンが見たのはうつむくキラの姿。

「・・・キラ?」

不思議に思ったシンはキラに手を伸ばす・・・。

「ダメだ!今のキラに触れては・・っ!」

「え・・・?」

いきなり叫ばれてもその行動をとっさに取れるわけもなく。

シンの手はキラの肩に触れた。






「シン・・・?」






先程まで反応しなかったのが嘘のように、キラがゆっくりと顔を上げた。

「キラ?」

その正面には、シンがいて・・・。

「シン・・・・・シ・・、ン・・・・・っ」

「え?」

驚いたことに、キラはシンの胸に飛び込むようにしてしがみついてきたのだ。

反射的に受け止めたはいいものの、シンはどうしていいのかわからずにアスランとイザークを見る。

だが驚いたのはシンだけではなく、彼らも同じだったようだ。

キラが発作を起こしてから誰かにすがりついたのは初めてだったから。

「アスラン」

「まぁ、しかたないだろ。・・・シン」

「あ、はい」

どうしたらいいのかわからないが、とりあえずキラを抱きしめながらシンは上官二人を見た。

「異例だが、今から休暇を与える」

「休暇?」

なんで?という不思議な顔をするシンをわからせるのは、行動に移すのが一番早い。

ということで、アスランはキラの頬にそっと手を伸ばした。

が、キラに触れる直前、キラの体が尋常でないほど震えだした。

シンの軍服を掴む手には、白くなるほど力が込められ、体はガタガタと震えていた。






「・・・・っ」






今にも悲鳴を上げてしまいそうなほど、キラは見るからに怯えていた。

「キラがこんな状態だからな・・・」

「一体、キラはどうしたんですか?」

「それはちょくせつキラに聞くんだな。おそらく、いつもよりは早く回復するはずだ」

「いつもって・・キラ、いつもこんな・・・?」

「ま、ひどいときには3日間この状態が続く」

「3日・・・」

シンは怯えるキラの背をゆっくりと撫でた。

大丈夫、ここには自分が居るんだと、キラに教えるように。

少しずつだが、キラの体から力が抜けていることを感じた。

「わかりました。じゃ、俺たちはこのまま部屋に戻ります」

「ああ。・・・・キラのこと、頼むぞ」

「はい」




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