戦争が終わって、でもすべて終わったわけではなくて。 少しでも何か、自分にできることがあるのならばとこの道を選んだけど、果たしてそれは正しかったのか。 この道を選ぶことで、自分の知らないところでまた人を傷つけはしないだろうか。 前の大戦の時のように、誰かを不幸にしていないだろうか。 じわり、じわりと心の奥底で何か暗いものが広がっていくように感じた。 それをみとめたくなくて、気付きたくなくて、キラは顔を左右に激しく振ってその思考を頭の中から追い出した。
何も考えない。 自分ができることだけを、前に進むことだけを考えればいい。
キラは部屋の電気を消すと自らのベッドに横になった。 だけど眠気は一向に訪れてくれる気配はなく、心の闇は少しずつキラの心の中を飲み込んでいくように感じた。
やだ・・・やだ・・・、やだぁ・・・・・
じわりと目じりに涙が浮かぶのが分かる。 体が硬直してきて、もう身動きも取れない。 ぎゅっと自分の体を抱きしめた、そのとき・・・・。
「キラ?」
眠っていたはずのシンが、キラのベッドのすぐ横に立っていた。 シンの声に、キラの体はまるで金縛りから解けたように力が抜けていくのがわかった。 「シ・・ン・・?」 ベッドにひじを付いて、どうにか上半身だけ起き上がることができた。 「キラ、どうしたの?・・・・泣いてるのか?」 体を起こした拍子に目じりに溜まっていた涙が頬を伝う。 「あ、あの、ごめん。なんでもないの・・・。起こしちゃった?」 「別に、勝手に目が覚めただけ」 そういいながらも、シンは心配そうにキラのことを見つめると、頬を流れる涙を親指で拭ってくれた。 少々乱暴で不器用な手つきだったが、その手から伝わるぬくもりにキラは自分の気持ちが少しずつ落ち着いてきていることに気付いた。 「あ、あの。もう大丈夫だよ。シンも疲れてるでしょ?先に休んで?」 シンに触れられて少し落ち着いたものの、やはり眠れるような精神状態ではない。 このまま部屋に居てもシンが落ち着かないだろうと考え、談話室にでも行こうかと立ちあがったキラの腕をシンはとっさに掴んだ。 「シン?」 「あんた、自覚ないだろ」 「え?」 シンの真剣なまなざしを真っ向から受け止めながら、それでもシンが何を言っているのかわからなかった。 「また今にも泣きそうな顔してる」 「そ、そんなことは・・・・」 「ある」 キラの否定を認めないというように、シンはキラの腕を引っ張ってベッドに押し倒した。 「な、なに・・?」 いきなりのシンの行動に不安そうに見つめるキラに、シンは構わずのけられていたシーツをキラの体にかける。 「少しでも眠ったほうがいいよ。それがダメなら横になるだけでもずいぶんと違うから」 そう言ってキラを寝かしつかせるようにポンポンと二度叩くと、シンは自分のベッドに戻るように立ちあがった。
「え?」
くんっ、と何かがシンのシャツを引いた。 「あ・・・」 その先にあったのはキラの細い指で、無意識のうちに掴んだキラは驚いた風な表情を見せたが、それでもその手を離そうとはしなかった。 「あ、あの・・・」 「どうしたの?」 「えっと・・・、い、一緒に寝ない?」 「は?」 とっさにキラの言っていることが判断できない。 それと同時に、突発的なことを言ってしまったことに、キラの顔は徐々に赤くなってくる。 「あ、あの、その・・・。や、やっぱりいい!なんでもないっ」 自分が口にしたことに改めて気付き、キラは照れ隠しをするようにバサッと頭からシーツをかぶった。 そんなキラに、シンは考え込むように見つめるとポンポンとシーツを被っているキラの肩を叩いた。 「キラ」 「な、なに?」 「一緒に寝るんだろ?だったらもうちょっとそっち寄って.。ついでに言うと中入れて」 シンの言葉に、キラは顔を出してシンを見た。 「い、いいの?」 「別に。ただ一緒に寝るだけだろ?俺は気にしないし」 ほら、と促されてキラはベッドの端に移動した。 シンは自分のベッドからもシーツを持ってくると、それを今キラが使っているものの上にバサリと覆いかぶせた。 そのままベッドの上に乗り、横になっているキラの隣に体を収める。 「おやすみ」 そう言って目を閉じたシンからはすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。 自分から言い出したこととはいえ、どうしていいかわからなかったが、それでも側にぬくもりがあるだけでさっきまで心を満たしそうになっていた闇が暴れだすことはなかった。 「・・・・シン?」 完全に寝ていることを確かめてから、キラはシンの片腕をそっと枕にするように動かし、すぐ側に体を移動させた。 密着させたシンの体からは暖かなぬくもりと規則ただしい鼓動の音だけが静かにキラに伝わる。 絶対に眠れないと思っていたのに、少しずつ眠気を感じるようになった。 そのまま身を任せるように目を閉じる。
だが、そのぬくもりも、キラの心の闇を打ち消してはくれなかった。 |
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