「あれからシンはどうだ?」

「ん?大分落ち着いたみたい。ただ、やっぱり時々うなされて飛び起きるときがあるから・・・」

「そうか」

「でも、それってあれだろ?あのレイやルナマリアも知らなかったんだろう?」

今は今後の針路、アカデミー研修生達に関する報告などをする簡易な会議中。

いる面子もキラ、アスラン、イザーク、ディアッカのみだった。

現在この艦の命令系統はこの4人に統括されており、他の人間が間に入ってあれこれ関与するよりも4人で会議をしたほうが早いとの結論ゆえだった。

もちろん、そのことに異論を唱えるものなど一人も居ない。

「結構必死で隠してたみたい。最初、僕にも隠してたもん。なんでもないって言ってはいたけど、顔真っ青だし、声は震えてるし。問い詰めたらそう話してくれたよ」

シンが見る夢はあのオーブでの最後の日。




家族を、失った日の光景だった。




「しかし、他の奴らがな」

「平気だよ。シンも部屋を出たら僕を一人の上官として見るように言ってあるし、あの子も自覚している」

ああ見えてもシンは内面はしっかりした人間だ。

上官に結構失礼な言葉や態度を見せるときもあるが、普段はきちんと命令に従う。

感情が彼の心理を上回らない限り、だが。

「何か心配しているみたいだけど、僕とシンの間には別にセクシャルな意味はないよ」

「あたりまえだ、休暇中であるまいし」

すぐにそう返してきたイザークだが、明らかにほっとしているのが分かる。

上官と下官がただならぬ関係を持つ。

それが同じザフト兵ならまだどうにかなる問題なのかもしれない。

だが、相手はまだ兵士にもなっていないアカデミー在籍のいわば雛。

そんな相手と噂になるのはキラとしてもシンとしてもよくない状況だといえる。




「失礼します」




噂をしたからなのか、部屋に来たのはシンだった。

「昨日の報告書をまとめてきました」

「ご苦労様。もらっておくね」

「では、失礼します」

敬礼をして、シンは出て行った。

「ね、大丈夫でしょう?」

「まぁそうだね。それじゃ、このまま様子を見ようか。少なくとも、今のシンでは、このまま卒業してザフトに入隊するとしても難しい点が出てくるかもしれない・・・・」

精神的な、原因が。















プシュッ

一日の業務や報告書などの用事を済ませて、シンは部屋に戻ってきた。

この艦に乗り込んでからすでに6日がたとうとしていた。この研修は10日予定されているので、すでに半分を経過したことになる。

艦内の作業やいつもとはまったく違うMSの訓練にもようやく慣れてきたところだが、それでも初めての宇宙空間での軍務経験に疲労の色を隠すことができなかった。

それはシンだけではなく、同じパイロット候補生であるルナマリアも一緒であった。

彼女も同室者である妹のメイリンと早々に部屋に引き上げている。

レイにいたっては別段なにも変わりなく、あいからわずルナマリアとシンのフォローを手放すことなく勤めてくれる。

「おかえり、シン」

「・・・・・ただいま」

部屋にはすでにキラが戻ってきていた。

おかえり、なんていわれるのはどれぐらいぶりだろうかと思いながらも、シンは着ていた上着を適当にデスクに放って、自らの体をベッドへと倒れこませた。

冷たいシーツが心地よくて、このまま寝てしまいたくなる。

そんなシンを見て、キラは気付かれないようにクスッと笑う。

笑ったことが分かったら、きっとシンは機嫌を悪くするだろうから。

キラはパソコンの電源を落とすと、シンが放ったままの状態だった赤服をハンガーに掛ける。

「シン、シャワーあびないの?」

「・・・・疲れた」

キラはシンのベッドに腰掛けるとシンの髪にそっと指を絡めた。

髪を梳かれる優しい感触に、シンはほっと息を吐き出す。

「おつかれさま、シン」

「ん・・・・」

にこっと微笑むキラにシンは仰向けのまま視線だけをキラに送った。

「なに?シン」

「もう、今日の仕事終わった?」

「うん。今日はアスランたちとほとんど会議だけで終わったから」

「なら・・・・」

すっ、とシンの腕がキラに伸ばされたと思ったら・・・・。

「え?わっ・・・」

ぐいっと手を引いてキラの体を自らの腕の中に閉じ込めた。

「ちょ、シンっ。離して・・・・・」

いきなり抱き込まれて慌てたキラはなんとかシンの体を押し返そうとするが、腕の力が強くてどうにも外れない。

普段の子供っぽい行動であまり考えていないけど、シンはキラとは二つしか違わないのだということに改めて気付かされる。

「・・・・・・・・・・」

「シン?」

「・・・・・スゥ・・・・・・・スゥ・・・・・・・」

「・・・・・寝てる」

いきなりと思ったのに、どうやら寝ぼけ半分だったらしい。

上を見上げると安心しきって眠っているシンの寝顔が見えた。

いきなりで驚いたけど、自分が側に居ることでシンがこんなにも安心して眠ってくれることが純粋に嬉しかった。

「よいしょっと」

力ではなく、隙間を見つけてシンの腕の中から抜け出す。

「ん・・・・」

キラが動く違和感を感じてか、シンが身じろぎするが起きる気配はない。

そのことにキラはほっと息をつくといまだ身に着けたままだった隊長服を脱いで壁に掛けた。










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