医師の判断はやはり睡眠不足から来る疲労とのことだった。

「シンには僕がついてるから、みんなは仕事に戻って?」

「だがキラ・・・」

イザークとアスランが顔を見合わせる。

日ごろのシンの態度からして、なるべくならシンとキラを二人きりにはしたくない。

キラに言われたからシン自身を注意するようなことはしてはいないが、それでも不安は残る。

「大丈夫だから。ね?」

そういわれればアスランたちは引き下がるしかない。

「それじゃ、何かあったらよべよ」

「わかってる」

そういってアスランとイザークは医務室から出て行った。

「ヤマト隊長、シンのこと、よろしくお願いします」

「うん。二人ともがんばってね」

「失礼します」

心配そうな顔をしながらも、レイとルナマリアはアスランたちの後に続いた。










ふとシンは額に触れる何かの感触に目を覚ました。

「んん・・・・・」

「あ、起きた?」

さらりと前髪をかきあげられる。

ぼんやりとキラのことを見つめながら、シンはぽつりとつぶやいた。

「一つ・・・聞いても、いいですか?」

「うん。何?」

「あなたは、戦時中にもあれに・・・乗って、いた?」

「・・・・・そうだよ」

キラが暗い表情で肯定した途端、シンは目をかっと開いてベッドの側にいたキラの襟元を力任せに掴んだ。





こいつが!こいつが!!こいつが!!!





そのままベッドへと引き倒し、押さえつける。

「あんたが!あんたが父さんと母さんを!マユを、殺したんだ!」

いきなりのことになんのことだか分からなかったキラだったが、ふと昨日ディアッカから聞かされた話を思い出した。





彼、シン・アスカは元々オーブの出身者なのだという。





そっか・・・、そういうことか。





キラは、シンの言葉にすべてを理解した。

「そうだよ、僕が殺した。守れなかった。だから、君の気が済むのなら、僕を殺して・・・・」

そうキラが言うのと同時に、シンの指がキラの首元にからまる。




・・・・が、それにいつまでも力が加わることはない。




「シン?」

「・・・・分かってる、こんなことをしてもなんにもならない。マユは還ってこない、父さんたちだって、喜ばない・・・。でも・・・でも・・」

「分かってる。わかってるから。もういいよ、シン」

キラは両手を伸ばすと、シンの首に腕を回し、涙を浮かべるシンの体をゆっくりと抱き寄せた。

シンも抵抗するでもなく、そのままキラの胸へと顔をうずめた。





何か対象にしてうらまなければ、きっと自分を保てなかったのだろう。

大切な家族を失ったシンにとって、それしか道がなかったのだ。





「どうすればいいかなんて、わからない。俺は・・一人だ・・・」

「大丈夫、君は一人じゃない・・・。今もこれからも・・・ずっと僕が側に居るよ?シンの側に、ずっと・・・・」

「う・・・・・・・ぅ・・・・・」

「大丈夫、大丈夫・・・・」

キラはシンの体の震えが止まるまで、ずっと抱きしめていた。

大丈夫、一人じゃないと繰り返しながら。

















「キラ!?おまえなにやって・・・」

「し〜っ!眠ったばっかりなんだから、起きちゃうでしょ!」

一時休憩を取ったアスランたちはキラとシンの様子を見るために医務室へと戻ってきた。

が、シンの眠るベッドに近づいたとき、その様子に正直言って度肝を抜かれた思いだった。

キラはベッドに腰掛けており、シンはそのキラの膝に頭を乗せた状態で眠っていたから。

しかも、しっかりとキラの手を握って。

まるで、どこにもいかないようにつなぎとめるかのように。

「寝たのはわかった。だがなぜそんな体制になったんだ?」

「ま、なりゆき?このほうがシンが安心して眠れるから」

キラはそう言って微笑むと、眠っているシンの額にかかる前髪を軽く払った。

「そうだ、シンの部屋、僕と一緒にして」

「・・・何を言っている?」

「まぁ僕の部屋のベッド一つ空いてるし、シンがこっちに移ってくればいいだけだよね」

勝手に自己完結してしまったキラに、さすがのアスランたちも困惑気味になる。

確かに今朝まで二人の間に険悪なムードが漂っていた。

それが、なぜこうまでして親密に、しかも同室になるのか。

「上官とアカデミー生とはいえ一般兵が一緒の部屋は・・・」

「僕がいいって言ってるの。ね、いいでしょ?」

こうなったキラの意志を変えることができないのは、付き合いの長いアスランたちにはよくわかる。

「しかたないな。だが、大丈夫なのか?」

「平気。今のシンを一人にするほうが心配だよ。今、すごく不安定な状況にいるから」

「不安定な状況?どういうことだ?」

アスランが聞き返すが、キラは淡く微笑むだけで何も答えようとはしなかった。

でもただ一言、こうつぶやいた。

「今のシンには、ずっと側に居て見守ってくれる人が必要なんだよ」

それだけ、つぶやいた。




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