「さすがだね、赤を纏うだけのことはある」 キラは3人の対戦成績を見直しながらそうつぶやいた。 実際の戦場でのパイロット達よりは実力は確かに劣るものの、それでも各自自分の特性の生かした戦闘方法というのを徐々に実につけはじめているのがキラにもわかった。 今回は実力身のためにシュミレーションマシンを使用したが、これならば明日から宇宙空間に出ても問題はないだろう。 「嫌味ですか?俺たち全員、あなたには適わなかったのに」 そんな言葉に、ふとキラは顔を上げる。 声の先には相変わらずキラを睨むようにみるシンの姿があった。 「おい、シン」 上官への無礼ぶりに注意をしようとするレイとルナマリアだったが、双方の隣にいたアスランとイザークがそれを止める。 しかたなく、二人は成り行きを見守るしかなかった。 「君達新人に負けているようじゃ、戦場では生きていけないよ。僕を負かせたいのなら、もっと実力を磨くことだね、赤服のエリートくん」 「・・・・わかりました」
敵視されている。 僕、シンになにかしたかな?
シンのキラに対する挑戦的な態度はその後も続いた。 ことあるごとにキラに突っかかるような言動に、キラは真剣に悩んでいた。 もっとも、それにも何か理由があるんだと考えていたキラは、シンの行動に対する制限を持たすようなことは一切言わないようにイザークを初め、艦内のすべての人間に伝えた。
ひたすらに平行線をたどるようなシンとキラの関係は3日目にしてようやく変動があった。 3日目、シンが倒れたのだ。 「ちょっとシン、大丈夫?」 「平気か?」 「・・・・平気、ちょっとめまいがするだけだから」 いきなりめまいを起こしたシンにすぐにルナマリアとレイが近寄りその体を支える。 口では平気といっているシンだが、その様子はすでにちょっとめまいがした、だけではすまないのがよく分かる。 「レイ、医務室に連れてった方がいいんじゃない?」 「そうだな」 「いい、必要ない」 支えてくれる二人の手を振り払いはしたが、自分自身で立っていることができずにそのまま壁に寄りかかり座り込む。 「無理よシン、そんな状態で。隊長たちには言っておくから今日は休みなさい」 「たいしたことない、すぐに平気になる」、 そう言い張るが、とてもそうは見えない。 意地をはったシンは梃子として動かないことはレイもルナマリアも知っていた。 さて、どうしたものか。
「どうしたの?」
「ヤマト隊長」 偶然そこに通りかかったのは、めずらしく一人でいるキラだった。 いつもアスランかイザーク、ディアッカが必ずそばにいるのに、今日はそれが見当たらない。 「シン!?どうしたの?具合悪いの?」 驚いた様子でシンの横に膝を付くが、シンは嫌そうに顔を背けると一言言い放った。 「なんでもない。あんたに関係ない」 「ちょっとシン!せっかくヤマト隊長が心配してくださっているのに・・・」 「いいよ、ルナマリア」 そういうと、キラはすっと片手を伸ばしてシンの両目を覆った。 「なっ」 「黙る。そして動かない」 有無を言わさない口調のキラに、思わずシンも反論を忘れて動きを止めてしまう。 思えば、この3日間でこれほどキラがきつい口調で言葉を口にするのは初めてだ。
キラの手から伝わる熱が気持ちいい。
「ルナマリア、医務室に連絡入れてきて。レイ、アスランたち、誰でもいいからここに連れてきて」 「「了解」」 キラの指示にすぐにレイとミリアリアは各々思う方向へとかけていく。 二人を見送ってから再びキラはシンに視線を戻す。 「めまいするだけ?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「シン、ちゃんと答えて」 「少しだけ、頭痛がする」 「他は、吐き気とかはない?」 コクリとうなづくのを確認して、キラはシン体を自分の方に引き倒した。 「!?」 驚いたものの、シンはキラの行動に任せるままに力を抜いた。 大人しくなったシンの脈を測れば、異様なほど早い。そして、両手は水に触れた後のように冷えていた。 「シン、君、もしかして眠れてないの?」 「・・・・・・」 「そうなんだね。もしかしてこの艦に来てからずっと?」 「・・・・・・」 何も答えようとしないシンにため息がこぼれる。
まったく。 一体何が、彼の心の中に居るのだろうか。 憎しみか。 悲しみか。 それを取り除く術は、あるのだろうか。
「キラ!」 「アスラン、イザーク」 そのままシンの様子を見ながら待っていると、すぐにレイがアスランとイザークを連れて戻ってきた。 「話は聞いた。シンの様子は?」 キラとは反対側に屈み、イザークがシンの脈を取る。 「脈が速くて手足に冷えが見える。たいしたことはないみたいだけど、一応医務室へ」 「わかった」
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