「今日から十日間おまえらの教習は俺たちが仕切る。アカデミー生とはいえ、この艦に乗っている以上は軍人だ。甘えた考えは捨て、真剣に取り組むよう。以上だ」 「はっ」 ここはナスカ級、ジュール隊の仕切る戦艦。 今日から十日間、アカデミー生は卒業までの最終過程の一環として、ザフト軍の兵士と共に実際の軍務をこなす。 今年は過去大戦を収めた英雄と名高いジュール隊に軍配が上がった。 今回参加しているのはパイロット候補生3人、整備士候補生10人、その他セクションごとに5人ずつという配分だった。 アカデミー生に向かっていたイザークを中心に、教官側としては他にジュール隊からディアッカ・シホ。 そして今は本部所属であったアスランの姿があった。 「それでは各員、配置につくように。なお、パイロット候補生はこの場に残れ」 「はっ」 すぐに各セクションのリーダー格の兵士に従ってアカデミー生も移動を開始する。 この場に残ったのは赤を着た少年2人と少女1人だけだった。 「では、私はブリッジの方へ」 「ああ、そちらは頼むぞ、シホ」 「了解しました」 シホの敬礼にイザーク・ディアッカ・アスランも返すと、シホはブリッジへと移動した。 残された3人は改めて赤服の3人に向き合う。 「さて、それでは改めて名前を聞こうか?」 「レイ・ザ・バレルです」 「ルナマリア・ホークであります」 「シン・アスカです」 名前と同時に手元に渡されていたアカデミーでの成績をチェックする。 なるほど、赤を着るだけの実力はあるようだ。 「俺たちの方はまぁ知っているかもしれないが、俺はこの艦の指揮を預かる、イザーク・ジュールだ」 「その副官、ディアッカ・エルスマン」 「ザフト軍特務隊所属、アスラン・ザラだ」 「「「よろしくお願いします」」」 背筋を伸ばしてういういしく敬礼をする3人を、アスランたちも手馴れたそれで答えた。 「ところでアスラン、あいつはどうした?」 「いや、俺は用があって今日は別行動だったから知らないんだ。てっきりもう来ているものと思ったんだが」 「機体収納もまだだぜ?あいつ乗ってくるんだろう?」 「そのはずだ。まったく、なぜこういう日に限って遅れて来るんだ、あいつは」 シン達を無視して話しはじめたアスランたちに、シンとルナマリアは顔を見合わせ、ほぼ同時にレイを見上げた。 「レイ、この後どうするんだ?」 「俺に聞くな。とりあえず、イザーク隊長たちの支持を待つ」 「それはそうなんだけど・・・。話長そうじゃない?」 ルナマリアとシンは再びレイを見上げる。 こういうとき何かを判断するのは年長者でまとめ役でもあるレイの役目。 なぜかそれはアカデミーで共に行動するうちの一つの決め事にもなっていた。 「それに、3人が言っている『あいつ』って、誰のことだ?」 「あ、そういえば聞いたことがあるわ。あの大戦の英雄達と肩を並べる人が居るって。その人はザフトじゃなかったんだけど、大戦での功績が認められてザフトに入ったって話よ」 「それじゃ、何?この艦には大戦の英雄がそんなに乗ってるわけ?」 こそこそとしゃべっているわりに大胆な内容を話している二人に、間に挟まれたレイはいつ終わらせようかと悩む。 ここで止めると絶対にシンがへそを曲げるし、ルナマリアはレイが何か知っているんじゃないかと問い詰めにかかる。
と、そのとき不意に緊急のアラートが鳴り響いた。 「な、なんだ!?」 『フリーダム到着。収納にかかりますので、各員は安全区域まで非難してください』 聞こえてきたのはブリッジに移動したシホの声。 いきなり聞こえてきたアラートに、アカデミー生は戦闘か!?と驚いたようだが、それ以外の元々の組員はなれたものというようにすぐに格納庫から非難を始めた。 もちろん、ボーっとしているアカデミー生の首根っこを捕まえて。 「やっと来たか」 「ったく、あれほど遅刻するなと言っておいたのに」 「ま、いいんじゃないの?まだ出発してそう立ってないわけだし。いつもよりましでしょうが」 ため息をつきながらアスランとイザークは床を蹴り格納庫横のパイロット控え室へと向かい、ディアッカはいまだに伝ったままのシン達に言った。 「今からMSの収納すっから。俺たちは邪魔になるから一端ここを離れるぞ」 「あの、MSなんですか?」 「あ?ああ、見ていればわかるよ。アレに乗っているパイロットが正確にはお前らの今回の教官だよ」 俺たちはサブよ、サブ。 そう笑いながらいうディアッカに、シンたちは再び顔を見合わせる。
やはり、大戦の英雄の指導など、そう簡単に受けられるとは思わなかったが。 それでも、あの大戦を潜り抜けた英雄の技を、実力を。 肌で感じたかったのも事実だった。
全員が格納庫から出たことを見計らうかのように宇宙空間への扉が開かれた。 そこから入ってくるのは、かつて見たこともないぐらい精巧なMS。 「うわぁ〜・・・」 「「・・・・・・・・・」」 初めてみるその機体に、ルナマリアは声も出ないぐらいに驚いてしまった。 レイは内心驚きながらもそのことを表情に出さず、じっと収納されていくそのMSを見つめてた。 ふと、こんなときは誰よりも騒ぎ出しそうな人物が声すら上げていないことに気付く。 不思議に思い横のシンを見ると、驚いたことに彼はじっとそのMSを睨みつけるようにするどい表情を向けていた。 「シン?」 「え?あ、何?」 「いや、どうかしたか?」 「なんでもないよ」 そう答えるシンだが、その表情はやはり険しい。 普段明るいシンなだけに、その表情はレイの心に深く焼きついていた。
「ごめん、遅くなっちゃったっ」
そういって飛び込んできたのは赤のパイロットスーツに身を包んだ少女だった。 年齢もほとんど自分達と変わらないように見える。 だが、アカデミーで彼女の姿を見たものは居なかった。 「キラ、遅いよ」 「何をしていたんだ、お前は」 「ごめん、ちょっとここに来る前に知り合いに会ってさ。ちょっと挨拶してきたんだ」 知り合い、といったキラだったがイザークとアスランはその瞳の奥に光る怪しい光を見逃さなかった。 「まったく、無茶をする」 恐らく、その知り合いというのは、このプラントを偵察に来ていた地球軍のことだろう。 「まぁ、ね。でも大丈夫だよ、この辺りにはもういないし。それより、この子たちだね?」 「ああ。左から、ルナマリア、レイ、シンだ」 名前を呼ばれるごとに各々敬礼を示す。 キラもそれに返しながら素直な感想を述べた。 「了解。あ、3人とも赤だね、やっぱり。んじゃ、さっそくシュミレーションいってみようか」 と、そのまま奥のシュミレーター室に移動しようとするキラの腕をアスランが掴む。 「その前に、キラは着替え」 「え、このままでいいじゃない。基本設定とかあるし」 「それは俺たちがやっておく。さっさと着替えて来い」 「は〜い」 そういうとキラは身を翻して部屋を出て行ってしまった。 「ではまず各自の実力を見る。こっちへ」 案内されて入った部屋の中には先程から姿が見えなかったディアッカがいて、すでにシン達のデータ登録に取り掛かっていた。 「どうだ、調子は」 「ま、こんなとこだろ。あとの微調整はキラに任すわ。それじゃお前ら、そのマシンに各自入れ」 「「「はい」」」 マシンに入って各々自分にあった環境に設定を終える頃、ようやくキラが戻ってきた。 その身に纏っているのは、隊長の印でもある、『白』 「おまたせ。じゃ、始めようか」 「「「よろしくお願いします」」」 |
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